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東京地方裁判所 昭和40年(ワ)1536号 判決 1967年1月31日

原告 不動信用金庫

被告 玉木英治 外一名

主文

被告等は、それぞれ、原告に対し、原告と訴外後藤観光株式会社との間において、原告のため、別紙<省略>第一物件目録記載の建物につき東京法務局新宿出張所昭和三七年一二月二八日受付第三九、九六二号を以てなされた所有権移転仮登記に基く所有権移転の本登記手続、及び原告と訴外後藤文との間において、原告のため、別紙第二物件目録記載の各建物につき同出張所同日受付第三九、九六三号を以てなされた所有権移転仮登記に基く所有権移転の本登記手続をなすことを承諾せよ。

訴訟費用は被告等の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、主文と同旨の判決を求め、その請求の原因として

「(一) 原告は、昭和三七年一二月二七日訴外後藤観光株式会社(以下「後藤観光」という。)との間に、原告を貸主とし、後藤観光を借主とする、継続的貸金契約、継続的手形割引並びに手形貸付契約を締結し、右契約に基き将来原告が後藤観光に対して取得することあるべき債権の担保として、右同日、後藤観光は、その所有にかかる別紙第一物件目録記載の建物につき、また訴外後藤文二は、その所有にかかる別紙第二物件目録記載の各建物につき、それぞれ原告に対し、これらを共同担保とする債権元本極度額金五、〇〇〇万円の根抵当権を設定したほか、それぞれ原告との間に、右根抵当債務を履行しないときは代物弁済としてこれらの建物の所有権を原告に移転する旨の代物弁済一方の予約をなし、右根抵当権については東京法務局新宿出張所昭和三七年一二月二八日受付第三九、九六一号を以て各その設定登記を、代物弁済の予約については主文掲記のとおりの各仮登記(但し登記原因は停止条件付代物弁済契約と表示。)を経由した。

(二) かくて、後藤観光は、前記継続的手形貸付契約に基き、原告から、昭和三八年一〇月二三日より同年一一月二〇日までの間に、約束手形合計一五四通を以て、総計金一二億四、七七五万円の貸付を受けたが、その営業とする不動産業の失敗のため、同年一一月二五日手形の不渡を出して倒産した。

(三) そこで、原告は、後藤観光及び後藤文二に対し、それぞれ昭和四〇年二月一三日付内容証明郵便による書面を以て、代物弁済の予約を選択し、前記手形貸付債権のうち根抵当債権元本極度額にあたる金五、〇〇〇万円の支払に代えて、後藤観光については別紙第一物件目録記載の建物につき、後藤文二については別紙第二物件目録記載の各建物につき、それぞれ前記代物弁済の予約を完結する旨の意思表示をなし、右郵便物は同年同月一四日後藤文二に、同年同月一六日後藤観光に到達した。

(四) ところが、被告玉木英治は、別紙第一物件目録記載の建物につき東京法務局新宿出張所昭和三八年一二月二四日受付第三一、四五〇号を以て、別紙第二物件目録記載の各建物につき同出張所同日受付第三一、四五一号を以ていずれも同年一〇月二〇日付売買を原因とする所有権移転登記を、また被告新和不動産株式会社は別紙第一及び第二物件目録記載の各建物につき同出張所昭和三九年一月三一日受付第一、九〇八号を以て、いずれも同年同月一日付賃貸借契約を原因とする賃借権設定登記を経由している。

(五) しかし、被告等の右各登記は、いずれも原告の本件各仮登記の後になされたもので、順位保全の効力上原告に対抗し得ないものであるから、被告等は原告が右各仮登記に基き所有権移転の本登記手続をなすことを承諾すべき義務がある。よつて原告は被告等に対し主文掲記のとおりの承諾を求めるため本訴に及んだ。」

と陳述し、

被告等の抗弁に対し

「原告の本件各根抵当権につき、被告等主張の日に、被告等主張のとおりの転根抵当権が、債務者後藤観光の承諾のもとに、訴外中央信用金庫のために設定され、その旨被告等主張のとおりの転根抵当権設定登記が経由されたことは認めるが、転抵当の拘束力に関する被告等の主張は争う。原根抵当権者たる原告がその根抵当目的物件である本件各建物の所有権を取得したとしても、この場合には原根抵当権は混同の法理の例外として消滅せず、従つてこれにより転根抵当権の目的となつた担保価値を害することはないから、本件各建物の所有権取得につき、原告において被告等主張のような拘束を受けるいわれはない。」

と述べた。

立証<省略>

被告等訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁並びに抗弁として

「(一) 請求原因(一)の事実は認める。

(二) 同(二)の事実のうち、後藤観光がその営業とする不動産業の失敗のため、原告主張の頃手形の不渡を出して倒産したことは認めるが、その余の事実は不知。

(三) 同(三)の事実は不知。

(四) 同(四)の事実は認める。

(五) 同(五)の主張は争う。

(六) 右請求原因(三)において原告の主張する代物弁済予約完結の意思表示は、仮りにこれありとしても、次の理由により無効である。

すわなち、原告は、昭和三九年九月一五日、原告がかねて訴外中央信用金庫との間に締結した同年八月二七日付原告の清算に伴う預金の支払方法等に関する契約に基き、同金庫が原告に対して有することあるべき債権の担保のため、本件各根抵当権につき、債務者後藤観光の承諾を得て、同金庫に対し債権元本極度額金三億円の転根抵当権を設定し、東京法務局新宿出張所同年一一月一七日受付第二五、九三〇号を以てその旨転根抵当権設定登記を経由したものであるが、およそ、転抵当権を設定した原抵当権者は転抵当権の目的となつた担保価値を減小ないし消滅せしめざるべき拘束を受け、従つてその範囲において原抵当権の実行はなし得ざるものというべきところ、本件の場合、原告の前記根抵当権の設定も、これと同時になされた代物弁済の予約も、ともに原告が債務者後藤観光に対して有することあるべき債権の担保という共通の目的をもつもので、両者のうち一者の権利が行使されるときは他方の権利は消滅する関係にあり、従つて原告が代物弁済の予約を完結すれば原告の右根抵当権は消滅し、根抵当権を実行したと同様の効果を生ずるものであるから、原告は、訴外中央信用金庫に対して転抵当権を設定すると同時に、前記代物弁済の予約完結権を行使し得ざる拘束を受けるに至つたものである。従つて右拘束を犯してなされた原告の本件代物弁済予約完結の意思表示は無効である。」

と述べた。

証拠<省略>

理由

(一)  請求原因(一)の事実は当事者間に争がない。

(二)  同(二)の事実のうち、後藤観光が、継続的手形貸付契約に基き、原告から昭和三八年一〇月二三日より同年一一月二〇日までの間に、約束手形合計一五四通を以て、総計金一二億四、七七五万円の貸付を受けたことは成立に争のない甲第五号証及びこれにより真正に成立したものと認められる同第四号証の一ないし一五四に照らしこれを認めるに十分であり、後藤観光がその営業とする不動産業の失敗のため昭和三八年一一月二五日手形の不渡を出して倒産したことは当事者間に争がない。

(三)  同(三)の事実は各成立に争のない甲第六、七号証の各一、二によつて認められる。

(四)  同(四)の事実は当事者間に争がない。

(五)  そこで被告等の抗弁について按ずるに、原告が昭和三九年九月一五日被告等主張のとおり本件各根抵当権につき債務者後藤観光の承諾を得て訴外中央信用金庫のために債権元本極度額金三億円の転根抵当権を設定し、その旨被告等主張のとおりの転根抵当権設定登記を経由したことは当事者間に争ないところ、一般に転抵当権を設定した場合、原抵当権者が転抵当権の目的となつた担保価値を減少ないし消滅せしめざるべき拘束を受けることは、まことに被告等所論のとおりであり、従つて原抵当権者は、その被担保債権額が転抵当権者のそれに超過する場合に限り、その超過額の範囲内においてのみ自己の債権の弁済を受け得る権利を有し、これを超過して転抵当権者の承諾なくして受けた弁済は転抵当権者に対抗し得ざるものとされている(民法第三七六条第二項)が、右の場合弁済その他これに準ずる行為を当該当事者間においても絶対的に無効とする趣旨であると解すべきではないのみならず、本件にあつては、原根抵当権者たる原告が代物弁済の予約完結によつて根抵当目的物件の所有権を取得しても、混同の法理の例外(民法第一七九条第一項但書)として、原根抵当権は消滅しないのであるから、転根抵当権者たる訴外中央信用金庫の権利を害することはない。従つて被告等の抗弁は理由なきものとして排斥を免れない。

以上によつてみれば、原告は予約完結権の行使により本件各建物の所有権を有効に取得したものというべきであるから原告の本件仮登記より後順位にある登記名義人たる被告等は、原告が右仮登記に基き本登記手続をなすにつきこれを承諾すべき義務あるものといわなければならない。(もつとも右仮登記は登記原因を停止条件付代物弁済契約として表示されてあるが、この種の表示のそごは登記の同一性を害するものとは認められない。)

よつて原告の被告等に対する本訴請求はすべて理由ありとしてこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 古山宏)

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